自己破産と個人再生の違い|どちらを選択すべき?
借金を解決する方法は1つではありません。
複数の方法があるため、自分に最も適した方法を選択することが大切です。
多額の借金を解決する方法には、主に「自己破産」と「個人再生」の2つがあります。
問題は「どちらを選択するか」です。
どちらかを選ぶことによって借金そのものを解決できるかもしれませんが、解決した後の生活には少なくない違いが表れます。
間違った選択をすると、「借金は解決できたけど、思っていた解決方法とは違った。まだ生活が苦しい」ということになりかねません。
正しい選択ができるように、ここでは自己破産と個人再生の違いについて解説していきます。
現在借金を抱えている人、特に多重債務者となってしまっている方はぜひお読みになって、借金を解決するための参考にしてください。
このコラムの目次
1.自己破産と個人再生の共通点
双方の違いを見る前に、まずは共通点を見ておきましょう。
(1) どちらも債務整理の一種で、裁判所で手続をする
自己破産も個人再生も、借金を解決する「債務整理」と呼ばれるものの一つです。
自己破産と個人再生は、どちらも裁判所に申し立てを行う債務整理です。
裁判所が絡むため、手続は法律に則って行われ、法律の定めた一部の場合を除いて債権者は関与できません。
申立人である債務者側にとっては、基本的に債権者の意向に関係なく借金を解決できる点がメリットとなります(個人再生の「小規模個人再生」を選択した場合は事情が異なります)。
デメリットとしては、法律に則って手続が進むため、法律に合わせた書類を用意して、法律に沿った行動をしなければならない点が挙げられます。
書類に不備や不足があってそれを修正できなかったり、裁判所の手続に協力できなかったりすると、最悪の場合は手続自体を打ち切られてしまうおそれがあります。
(※ちなみに債務整理には、もう一つ「任意整理」という方法もありますが、これは原則として利息の免除のみであり多額の借金を解決というわけにはいきません。また、裁判所を通さない私的な手続きであるため、ここでは説明を割愛します。)
(2) 税金など一部の債務は解決できない
自己破産と個人再生のどちらを選んでも解決できない債務があります。
以下のものが代表例です。
- 税金
- 不法行為の損害賠償の一部
- 養育費
「不法行為の損害賠償」はわかりにくいかもしれませんが、暴行をした人にけがをさせた等の加害者になったときに被害者へ支払う賠償金をイメージするといいでしょう。
被害者に資力がなく、損害賠償金をもらえなければ治療費を捻出できない場合、賠償金を減らしたりカットしたりすると、被害者は治療ができなくなってしまいます。
もし、損害賠償金を自己破産などで減らせるのならば、悪意を持った人がわざと人を傷つけてから自己破産などをしてしまえば、被害者は救済を受けられず、場合によっては被害者の健康や生死に関わるかもしれません。
こういった事態を避けるために、損害賠償については例外的な扱いがされているのです。
養育費についても、子供の成長に関わる重要なものであるため、自己破産や個人再生では解決できないことになっています。
これらのような解決できない債権(債務)のことを、自己破産では「非免責債権」、個人再生では「非減免債権」と呼びます。
(3) 官報に載る
官報とは日本国の機関紙です。法律の公布から公務員の人事などまで様々なことを国民に知らせる役割を持っています。
官報は大きめの図書館などで誰でも見ることができますし、発行から30日以内であれば無料でインターネットから閲覧することができます。
裁判に関わる内容も掲載されるため、裁判所で行われる自己破産や個人再生のことも官報に記されています。
自己破産や個人再生をすると、その人の氏名や住所などが官報で公開されます。
「借金を整理したことが日本国民に全員に公開されるの!?」と驚く人もいるかと思いますが、実際のところ官報を読む人はそう多くないため、破産開始決定により資格制限がある業種に就職している場合など以外の場合は、官報から周囲にバレる可能性は極めて低いです。
ただし、闇金業者などが官報を見て「お金に困っているなら融資しましょうか?」などと近づいてくる可能性があるので注意してください。
2.自己破産の特徴
ここからは、それぞれの特徴をご紹介していきます。
まずは自己破産から見ていきましょう。
(1) 借金が全額免除される
自己破産に成功すると、前述した非免責債権を除いた全ての借金がゼロになります。
支払義務が消えてなくなるため、借金だけを解決する方法としてはある意味において最強かもしれません。
(2) 無職でも利用できる
債務整理の中には、定期的な収入がないと利用できない制度もあります。
しかし自己破産は、その後の継続的な収入がなくても申し立てを行うことができます。
収入のない無職の人が借金を帳消しにするには自己破産しかないでしょう。
(3) 財産の処分が必要
自己破産は何のリスクもなく借金をゼロにできる制度ではありません。
自分に一定以上の財産がある場合、裁判所側がそれを処分してお金に換え、債権者への弁済に充当します。
一定以上の財産とは、例えば、99万円を超える現金、20万円を超える口座残高、20万円を超える財産類です。
不動産や自動車、高価なブランド品や宝飾品、有価証券や保険の解約返戻金、ときに退職金の一部は処分の対象となります(詳細は各裁判所により異なります)。
持ち家がある場合はほとんどのケースでそれを失ってしまうので、引っ越しを余儀なくされるでしょう。
ただし、処分されるのはあくまでも「一定以上の財産」であり、評価額の低い財産は処分されませんし、家具や家電、調理器具や衣類などの生活必需品もそのまま手元に残せます。
財産を一切処分せずに自己破産に成功した人もたくさん存在するので安心してください。
(4) 資格制限がある
一定の資格に基づいた業種の場合、破産をしてしまうと、免責決定が出るまでの間、その資格を利用した仕事をすることができなくなってしまいます。
たとえば、弁護士や司法書士などの士業、警備員や保険外交員など。人のお金を扱ったりする仕事については、制限されることになります。この場合は、後述の個人再生を使うことで問題を回避することができます。
自分の場合はどの財産が処分の対象になりそうなのかを知りたい場合は、前もって弁護士に相談して聞いておきましょう。
3.個人再生の特徴
続いては、個人再生について紹介します。
(1) 借金の大幅な減額と分割払い
個人再生は、まず借金を大幅に減額し、残った借金を原則3年かけて毎月少しずつ返済していく債務整理です。
減額率は借金額によって差異はありますが、最大で9割にも及びます。
借金額が極めて多額の場合には、借金の額が10分の1になることもあるため、支払いも生活もかなり楽になるはずです。
(2) 安定した収入が必要
個人再生は借金の返済を前提とした手続なので、返済ができるだけの定期的な収入が将来にわたって継続する見込みのある人でなければ利用できません。
定期的な収入があれば、正社員でなくバイトやパートでも利用できます。
しかし、無職の人はもちろん、単発のバイトを繰り返している人も「定期的な収入がある」とは認めてもらえないので、個人再生を利用できません。
自営業の人は収入が不安定なことが多いですが、3ヶ月に1度の割合で返済が可能なだけの収入があれば問題とならないことが大半です。
年金生活者も個人再生はできますが、障害が理由で年金をもらっている人の場合は、障害がなくなると年金を受給できなくなるので、個別に判断が行われます。
(3) 財産の処分は原則的にない
自己破産をすると財産を処分されることがありますが、個人再生では基本的に財産を処分されることがありません。
例外として、ローン支払中の品物は、ローンの債権者が回収してしまうことがあります。
ローンを支払っている品物の所有権は債権者が有していることが大半です。
そのため個人再生をすると、債権者が品物を引き上げて債権の回収に充てようとします。
マイカーローン支払中の車などは、自己破産・個人再生どちらの場合でも、高確率で処分されてしまうと考えてください。
(4) 住宅ローン支払中の自宅を残せる可能性がある
前述の通り、ローン支払中のものは個人再生とともに回収されてしまうことが一般的です。
しかし、住宅ローン支払中の住宅には、「住宅ローン特則」という特別な制度が用意されています。
個人再生は債務者を助けるための制度ですが、制度のせいで住宅を失って債務者の生活に支障が出ては本末転倒です。
そこで「住宅ローンを従来通り支払うことを条件として、ローン中の住宅を処分しなくて済む」という制度が作られました。
これが通称「住宅ローン特則」です。
この制度を利用すれば住宅を失わずに個人再生することができます。
別荘などには適用されませんし、自宅に関するローンの支払いは継続しますが、家を失わずに済むのは大きなメリットと言えます。
4.どちらを選ぶべきか?弁護士がアドバイスします
財産を処分される可能性があるけれど、借金をゼロにできるのが「自己破産」です。
一方、財産を基本的に処分せずに済み、支払額を大幅に減額してもらえるけれど、借金を返済し続けるのが「個人再生」です。
返済能力がないのに個人再生を選ぶと、後で返済できなくなり結果的に自己破産をしなければならなくなるかもしれません。
しかし、安易に自己破産を選んでしまうと、資格制限がされてしまったり、持ち家をはじめとする財産を失ってしまいます。
どちらを選ぶべきなのかは個々の事情や本人の希望によってまさにケースバイケースであり、難しい判断を迫られます。
自己破産や個人再生をする場合は、必ず弁護士に相談してください。
自分では自己破産が最善だと思っていても、専門家である弁護士の目から見れば個人再生の方が向いていると判断されることもありえますし、その逆のパターンも考えられます。
債務整理方法の自己判断は危険です。どの手続きを選択するか悩んでいる方、借金問題にお悩みの方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
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