自己破産手続きで選任される管財人とは?
「破産管財人」という言葉をご存知でしょうか。
破産管財人は、その名から分かるように、破産手続きに関係します。
ここでは、破産管財人について、その職務内容・義務や、破産管財人と面談する際に注意するべきことを説明します。
このコラムの目次
1.破産管財人とは
破産管財人とは、破産手続きで行われる破産財団の管理・換価・配当等の重要な業務を行う専門家です。
「破産財団」とは、「破産者の財産又は相続財産若しくは信託財産であって、破産手続きにおいて破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するもの」を言います(破産法2条14項)。
ややこしい言い回しですが、要するに、破産手続きで処分されてしまう財産のことです。
破産者の持つ財産は、基本的に、破産財団となります。
破産財団に属さないものは、例えば、差し押さえ禁止財産(家具や衣服等の生活必需品やパソコン、スマホ等)や、破産手続き開始後に取得した財産(手続き開始後の給与等)です(破産法34条)。
破産の制度は、債務者に属する財産をもって、債権者に平等・公平な満足を与え、一方、債務者に残った債務を無くすこと(免責許可)で、債務者の更生を図ることを目的としています(破産法1条)。
その手続きを進めるためには、専門的知識を有し、かつ中立的な人物が必要です。
そうすると、破産手続きの進行にあたっては、裁判所が全面的にその役割を担うべき、と言えます。しかし、それは裁判所の予算的・人員的に不可能です。
そこで、破産管財人を置き、裁判所を補助する形で、破産管財人が手続きを進めていくことになります。
これが、破産管財人と呼ばれる専門家が必要とされる理由です。
2.破産管財人が選任されるケース
もっとも、破産手続きが開始されると、必ず破産管財人が選任されるわけではありません。
破産手続きは、管財事件と、同時廃止事件の二つに分けられます。
管財事件は、財産の調査・管理・換価などを行うもので、破産手続きの通常の手続きです。
しかし、この手続きは、破産者に、債権者の満足を与えられる財産があることを前提にしたものです。
そのため、そのような財産を破産者が持ち合わせていない場合、破産者の財産を管理等するために破産管財人を選任する必要はありません。
そこで、そのような場合には同時廃止という手続きが取られることになります。
同時廃止とは、破産手続き開始決定と同時に、破産手続きを終了させ、破産者を免責するか否かの判断だけを行うことを言います。
同時廃止手続きになると、破産管財人がいない状態で、免責許可をするか判断するために必要な手続き(破産者の審尋等)が行われることになります。
もっとも、免責不許可事由がある場合には破産管財人を選任して、破産管財人が免責調査を行うというのが多くの裁判所の運用となっています。
3.破産管財人の選任と職務の具体的内容
(1) 破産管財人の選任時期
破産管財人は、破産手続き決定と同時に選任されます(破産法32条1項)。
破産管財人になるための要件は、その職務に適した者(規則23条1項)とされるにとどまり、弁護士であることが要件とされていません。もっとも、実際には弁護士が破産管財人となることがほとんどです。
破産管財人の選任は、法人もしくは複数人でも可能です(破産法75条2項、76条)。
(2) 破産者との面談
破産管財人は、選任された時点では破産者の事情や財産について何も知りません。
そのため、破産管財人は、様々な情報を集めるために、破産者と面談をすることになります(三者打ち合わせ)。
そこでは、破産に至った事情、破産者の財産の状況等を聞かれます。また、破産管財人は、破産者から聞き取った情報を基に、必要な事項(破産に至った原因、破産者の財産の現状等)を記載した報告書を、裁判所に提出しなければなりません(破産法157条)
(3) 破産者の財産の管理・調査
破産管財人が選任されると、破産者の財産の管理に取り掛かります(破産法79条)。
管理するとは、例えば、破産者の持つ高価品を自己の占有(自己の支配下に置くこと)に移したり、破産者や債権者による、財産の隠匿や毀損を防止すべく、財産を封印(財産の現状を維持するため使用等を禁止する処分)したりすることです(破産法155条)。
また破産管財人は、財産を配当するため、破産財団の価額の評価や(破産法153条1項)、債権者の数や債権額を把握します。
もっとも、債権者が、破産手続きにおいて弁済を受けるためには、破産債権の届出が必要です(破産法111条)。
つまり、届出がない債権者は、破産者の財産から配当を受けられないのが原則です。
そこで、破産管財人は、届出があった債権額等についての適正を審査し、その債権額等について認否をすることになります(破産法117条等)。
(4) 破産者の財産の換価・配当
債権者に対して、債務を弁済するためには、財産の換価をすることが通常です。
破産者の財産の処分権は、破産手続き開始後から、破産管財人に専属します(破産法78条1項)。そのため、破産管財人は、それを任意売却もしくは競売により、現金化することができます。
もっとも、一部の財産の処分(不動産・特許権等の任意売却、営業の譲渡等)には裁判所の許可が必要です(破産法78条2項)。
破産管財人は、確定した破産財団から、破産法で定める配当基準に従って、債権者に配当をすることになります。
(5) その他
その他にも、破産管財人の職務として、破産財団に関する訴えの当事者となる(破産法80条)、否認権の行使(破産者の一部法律行為の効果を否定すること、破産法173条)、労働組合・税務当局との交渉などがあります。
4.破産管財人の義務
破産管財人は、裁判所による監督を受けます(破産法75条1項)。
具体的に、裁判所への報告義務が明文化されているものもあります(破産法88条、157条)。
また、債権者への報告義務も存在します。
すなわち、破産管財人は、債権者集会(裁判所の指揮のもと、破産者の財産状況やその他破産手続きにおける重要な情報を、債権者と共有するために開催される集会)において、破産財団の状況を報告しなければなりません。(破産法159条)
破産管財人が、破産財団に関する財産の管理及び処分を適切に行っていない場合は、破産管財人の職務を解任されたり、損害賠償を請求されたりすることもあります(破産法75条2項、85条)。
5.破産管財人との面談で気を付けるべきこと
前述したように、破産者は、破産管財人と面談する機会があります(三者打ち合わせ)。この三者とは、破産管財人、破産者、破産者の代理人弁護士です。
その際に、「管財人に何を聞かれるか分からなくて不安だ」と思うかもしれません。
しかし、代理人弁護士がついている場合は、破産者の説明で足りない部分、あるいは、更に必要なことを補足してくれます。また、仮に都合が合わずに、一人で破産管財人と面談することになっても、必要な情報は、代理人弁護士と破産管財人とで共有されています。
そのため、過度に緊張する必要はなく、質問に対して、覚えていることは正直に答えることが重要です。
ここで、やってはいけないのは、嘘をつくことです。なぜなら、嘘をついても、破産管財人が調査すればすぐにバレてしまうし、また、財産を隠しているのではないか等の疑いを招くことにもなりかねないからです。
近年において、自己破産が認められること、つまり免責許可がなされることがほとんどです(2017年において96.77%)。嘘をついて不都合な事実を隠さなくても、免責許可は得られます。
また、破産管財人は、裁判所に対し、免責許可をするかの判断にあたっての必要な事項を報告します。そのため、破産管財人の心証を悪くしないことは重要なことです。
上記のことを踏まえ、破産管財人との打ち合わせには、誠実な態度で望むようにしましょう。
6.まとめ
破産管財人は、破産手続きの中心人物で、様々な職務を遂行します。
破産者は、破産管財人と関わる機会が多く、その際には破産者の財産や破産原因等のことを説明しなければなりません。
また、債権者と関わる機会(債権者集会等)に、債権者から、破産者に対する追及がなされる場合があります。その際、破産管財人は、破産者に配慮はしてくれますが、あくまでも中立的立場なので、できることは限られます。
その点、自らが雇う代理人弁護士は、完全に自分の味方として行動してくれます。
自己破産を考えている方は、味方になってくれる弁護士に是非一度ご相談ください。
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