自己破産をしても養育費の支払い義務は残る!
「自己破産をすると借金がゼロになる」…この言葉を聞いたことがある方は多いと思います。
多額の借金で苦しんでいる人にとって、自己破産は魅力的な選択肢かもしれません。
自己破産をすることによって、多くの人々が借金生活から解放されていることも事実です。
しかし、本当に全ての債務が自己破産によって消滅するのでしょうか?
この記事をお読みの方の中には、過去に離婚した関係で別居している子供へ養育費を支払っている方もいるでしょう。
養育費の支払いで生活が圧迫されている人もいるかもしれませんし、既に養育費を滞納している人もいる人もいるかもしれません。
養育費が原因の場合でも、自己破産をすれば全てが丸く解決するのでしょうか?
養育費の支払いから逃れたくて自己破産を検討している人は、ぜひご一読ください。
このコラムの目次
1.自己破産で免除される債務/されない債務
自己破産をして債務の支払義務を免除してもらうことを「免責」と言います。
まずは免責の対象となる債務と、そうでない債務を覚えておきましょう。
(1) 免除される債務
自己破産をすると、基本的にはほとんどの債務が帳消しになります。
銀行や金融機関からのローンに加え、消費者金融会社から借りているお金、滞納しているクレジットカードの支払い、滞納中の電気代やガス代まで、自己破産をすれば多くの借金から解放されます。
また、事業をしている人の場合は、事業のために借りたお金もゼロになり、返済義務がなくなります。
商品を仕入れたのに仕入先へまだ支払っていないお金や、滞納中の店舗の家賃も返済しなくて済むのです。
さらに、友人同士など個人間の借金であっても、返済義務はなくなります。
民間からの借金だけでなく、公的機関から借りたお金、例えば奨学金であっても、自己破産をすれば返済の必要はありません。
次の項目で紹介する例外的なものを除いて、ほぼ全ての借金をゼロにできることが自己破産の大きなメリットです。
(2) 免除されない債務
自己破産しても支払義務を免除してもらえない債権(債務)は「非免責債権」と呼ばれます。
以下のものは非免責債権として法律に定めてあるので、自己破産しても解決できず、支払義務が残り続けます。
①税金などの公租公課
まずは税金です。滞納している税金は自己破産によっても免除してもらえませんし、自己破産の手続中も督促が行われます。
また、滞納している健康保険料や年金保険料も、税金と同じように免責されません。
税金やそれに準じるものは、自己破産しても支払い免除はされないと理解してください。
なお、下水道料金は破産法上「租税等の請求権」に分類されています。
上水道料金は税金の扱いではないので免責されますが、下水道料金は非免責債権です。
②悪意によって生じた不法行為に基づく損害賠償金等
相手に危害を加える目的で損害を与えた損害の賠償や、故意または重大な過失によって引き起こした事故等で人の生命身体に損害を与えたことによる損害の賠償は、自己破産をしても支払義務が継続します。
もし自己破産によって加害者が損害賠償をしなくても済むような状態になってしまうと、被害者は賠償を受けられず泣き寝入りとなってしまいます。
例えば加害者が「あいつは気に食わないから痛めつけてやろう」と思って、ある人を暴行したとします。
暴行された相手は怪我をしたため、治療費などに充てるために損害賠償請求をするでしょう。
ここで加害者が自己破産をして損害賠償の義務から解放されてしまうと、被害者は自腹で治療をしなければなりません。
被害者としては危害を加えられたうえに治療費の負担がのしかかってくるため、踏んだり蹴ったりの状態となります。
そういったことを防ぐために、損害賠償は非免責債権となっているのです。
③養育費
この記事の本題です。
結論から言えば、養育費は非免責債権であり、自己破産をしても支払義務が消えることはありません。
これは、養育費が「子供の生活を維持するために必要なお金」だからです。
離婚して別居した後であっても、子供を扶養する義務は残り続けます。
自己破産をしても親と子という関係がなくなるわけではありませんし、扶養義務が消えるわけではありません。
その扶養義務に基づいて、養育費の支払いが発生するのです。
色々と細かい理由はありますが、とにかく「自己破産しても養育費は払い続けなければいけない」と覚えておきましょう。
この他にも非免責債権はありますが、簡単な紹介のみに留めます。
- 夫婦間の生活費
- 滞納している罰金
- (個人事業主の方の場合)従業員に払う給料など
2.養育費は免除されない!どうすればいい?
既に述べたように、滞納している養育費は自己破産をしても免責されません。
他の借金はほとんど免除されるため、多重債務に陥っている方にとっては解決の兆しが見えるかもしれませんが、養育費の支払いだけができずに苦しんでいる人にとってこの事実は受け入れがたいでしょう。
現実問題として、何か解決策はあるのでしょうか?
(1) 時効の成立は難しい
養育費にも消滅時効があり、一定期間を過ぎると支払義務が消えてなくなります。
養育費の時効の期間には以下の2つのパターンがあります。
- 裁判所の手続によらず養育費の取り決めをした場合=5年
裁判所を利用せず当事者同士で合意しただけの場合は、消滅時効は「5年」とされています。協議離婚の場合はこれに当てはまりますし、公正証書にしてある場合でも5年です。 - 裁判所の手続を経て養育費の取り決めをした場合=10年
裁判所が介入して行われた取り決めについては、10年という長い消滅時効が適用されます。離婚訴訟だけでなく、離婚調停や審判、養育費調停や審判などをしていた場合、10年待たなければ養育費の支払義務は消えません。
実際のところ、上記の消滅時効まで逃げ切るのは非常に難しいでしょう。
その理由を述べていきます。
①時効がリセットされてしまう
以下のような場合、時効がリセットされます。
- 養育費を少しでも(1円でも)支払う
- 養育費を支払うという約束をする
- 訴訟などを提起されて請求される
子供との面会などで定期的に元配偶者と会うようなケースでは、つい支払いの約束をしたり、その場で手持ちのお金を払ったりすることもあるでしょう。
それによって時効がリセットされてしまうため、そこから再び5年から10年待たなければなりません。
②財産を差し押さえられる
以下のケースでは、養育費を滞納していると財産を差し押さえられる可能性があります。
- 養育費についての合意を公正証書で作成している
- 養育費の支払いに関する調停が成立している
- 裁判を経て養育費の支払いが決定している
差し押さえを受けた場合、銀行口座や給与から強制的に養育費を徴収されます。
2020年4月から法律が改正されたことに伴い、養育費を払わないで無視し続けた場合、「6ヶ月以上の懲役または50万円以下の罰金」という刑事罰を受ける可能性があります。
ただし、養育費を払わないとすぐに罰が下るわけではありません。罰を受けるのは「財産開示手続」という裁判所が行う財産調査に協力しない場合や、財産開示手続において虚偽の事実を述べた場合です。
ちなみに刑事罰を受けると前科がついてしまうため、その後の人生に何らかの悪影響があるかもしれません。
(2) 事情を説明して分割払いの交渉
養育費を払わないまま無視していると、裁判・差し押さえ・刑事罰などのリスクがあります。消滅時効は諦めて、別の方法を考えた方が良いでしょう。
まず行うべきものは、相手方との交渉です。
支払えない事情を説明して、分割払いをお願いしてみてはいかがでしょうか?
このとき、合意した内容は必ず書面で残すようにしてください。将来のトラブルを未然に防ぐことができます。
(3) 養育費減額調停を行う
上記の交渉に応じてもらえない場合は、「養育費減額調停」を行うという手もあります。
養育費減額調停とは、家庭裁判所に申し立てを行って、調停委員を通して相手方と話し合いをする手続です。
養育費の減額が適正であるという資料を調停委員に提出し、調停委員が納得すれば、調停委員が相手を説得してくれます。
そこで相手が応じてくれれば、調停が成立します。
成立しなかった場合、審判といって、裁判官が妥当な養育費の額を判断してくれます。ただし、減額するためには、以前の取り決め時と、経済事情などの事情が大きく変更したことなどが必要です。
裁判所で行う手続なので、裁判関係の専門家である弁護士に依頼して、結果を見積もってもらうといいでしょう。
弁護士なら、債務整理(たとえば自己破産)とは別事件扱いとはなりますが、調停・審判に必要な書類の用意や作成のサポートもしてくれます。特に、養育費以外に多額の債務がない場合には大きなメリットがあるでしょう。
3.自己破産は弁護士へ相談を
自己破産によってほとんどの借金は解決できますが、養育費は例外です。
養育費の支払義務は残り続けるため、自己破産をする分だけ時間と費用の無駄が発生してしまいます。
しかし、自己破産をすれば養育費以外の借金はほとんど解決できるため、養育費に回すお金を捻出するために自己破産で他の借金をゼロにするという考え方もあるでしょう。
ただし、それが本当に有効な方法なのかどうか、素人には判断しづらい部分もあるはずです。
弁護士に依頼すれば最適な方法を検証してくれますし、養育費自体の減額手段もアドバイスしてくれます。
自己破産をする場合や養育費の支払いに困っている場合は、ぜひ、泉総合法律事務所の弁護士までご相談ください。
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