給与差し押さえは債務整理で解除できる?
長らく借金を返済しないままでいると、給与を差し押さえられてしまうことがあります。
「給与を差し押さえられてしまったらどうなるのだろう?」「会社に借金がバレてしまわないだろうか?」など、給与の差し押さえには様々な不安がつきまといます。
そこで、給与を差し押さえられてしまった人のために、ここでは給与差し押さえの影響や、差し押さえを解除する方法を解説していきます。
目下給与の差し押さえを受けている人はもちろん、これから差し押さえを受けてしまいそうな人にも、是非お読みいただき、弁護士にご相談いただければと思います。
このコラムの目次
1.給与の差し押さえとは
給与の差し押さえを受けると、給与の一部をもらえなくなります。
そして、差し押さえられた分の給与は、差し押さえをかけた債権者に対する債務の返済に充当されます。
差し押さえられた分だけ債務の総額が減ると考えれば、(全体としてはプラスマイナスゼロなので)ある意味自分の損にはなっていないのかもしれません。
しかし、毎月の給与が満額で受け取れないというのは、やはり日常生活への影響が甚大ですし、生活以外の部分にも悪影響が出る可能性があります。
では、給与の差し押さえにより、具体的に債務者にどのような影響があるのでしょうか。
2.差し押さえられる金額
毎月の給与のうち、差し押さえられる金額の上限は、給与(総支給額)から税金や社会保険料等を差し引いた部分である手取り額を基準に、「手取り額の4分の1」と、「手取り額から33万円を引いた額」の、いずれか多い方の金額となります(これを逆から見ると、差し押さえされない金額は、「手取り額の4分の2」と、「33万円」の、いずれか少ない方の金額となります)。
例えば、手取り額が20万円の場合は、最大で20万円の4分の1=5万円が差し押さえられることになるので、手取り額が15万円になってしまいます。
これを考えただけでも、生活への影響が大きいことがわかるでしょう。
他方、もしも、毎月の給与の手取り額が44万円を超えている場合は、「手取り額の4分の1」よりも「手取り額から33万円を引いた額」の方が大きくなるので、33万円を超えた部分を全て差し押さえることが認められています。
例えば、手取り額が60万円の場合は、その4分の1の15万円でなく、60万円から33万円を引いた27万円を差し押さえられてしまうのです(よって、手元に残るのは33万円になります)。
また、手取り額が80万円であったとしても、同様に、33万円を超える部分(47万円)が全て差し押さえの対象になります。差し押さえによって、手取り額が33万円になってしまったら、手取り80万円を前提に組み立ててきた今までの日常生活のレベルを、かなり落とさざるを得なくなるでしょう。
3.給与差し押さえは会社にバレる
手取り額が減る以外の影響として、会社に差し押さえの事実がバレるかどうかを心配する人もいるでしょう。
現実的には、差し押さえの事実は「必ず」勤務先にバレてしまいます。
なぜなら、給与の差し押さえの通知(差押命令)は、裁判所から勤務先に直接送られるからです(給与の差し押さえとは、裁判所が勤務先に対して、債務者(従業員)に給与の一部分を支払うな、という命令をするなのことです)。
ひとたび給与差し押さえが始まると、会社の人は、毎月、給与の中から差し押さえ分の金額を、別途債権者の口座に振り込まなければなりません。
これは、会社の経理担当者に余計な手間をかけさせてしまうことになりますし、何の借金かまでは具体的にわからないものの、借金の理由・内容を、会社の人から詮索される恐れもあるでしょう(なお、差し押さえをかけてきた借入先の名前・住所・連絡先や、債権残高については、差押命令の中に書かれているので、事実上、差し押さえが始まった時点で会社に知られてしまいます)。
会社にバレることによって、それ自体を理由に解雇されることはありませんが、会社内での信頼を損なう(その結果、重要な仕事や、お金を取り扱う仕事を任せて貰えなくなる)、会社に居づらくなる等の悪影響が考えられます。
4.給与差し押さえの解除方法
では、もしも給与差し押さえが行われてしまったらどうすればいいのでしょうか?
最後に、差し押さえを解除するための方法をご紹介していきます。
(1) 借金を全部支払う
当たり前ですが、差し押さえをかけてきた相手に対して、借金を全部支払ってしまえば、もはや差し押さえの理由がなくなりますので、差し押さえは解除されます。
実際、親族や友人・知人からお金を借りて、全額返済する人がいるようです。
ただし、これは周りの人に迷惑をかけてしまう行為になりますし、借金で別の借金を返しても、トータルの借金の金額は減らない訳ですから、よく検討・相談して行動する必要があります。
なお、既に給与差し押さえを受けている人から、任意整理により債権者に差し押さえを取り下げて貰えないか、という相談をされることがたまにあります。
しかし、任意整理とは、あくまで債権者との任意の話し合いであり、差し押さえを止めるか否かは全て債権者の意思次第であるところ、債権者が給与差し押さえの取下げに応じることは(取下げるメリットもないので)まずありません。
したがって、一旦給与差し押さえを受けてしまうと、借金を完済出来ない限り、次に述べる破産あるいは個人再生によらなければ、給与差し押さえの問題を解決出来ないことになってしまいます。
(2) 自己破産する
自己破産と給与差し押さえの関係については、その事件が管財事件(破産管財人が選ばれる事件)か同時廃止事件(破産管財人が選ばれない事件)かで、法律上の扱いに違いがあります。
まず、管財事件における給与差し押さえの扱いに関してご説明すると、管財事件では、裁判所に自己破産を申し立てて、破産手続開始の決定が出されると、その時点で、給与差し押さえは効力を失います(これを「失効」といいます。なお、実際の手続としては、破産管財人から執行裁判所(給与差し押さえの申立がされた裁判所)に対して、破産手続開始決定が出たことを連絡した上で、差押命令が取り消されることになります)。
「失効」とは、それまで行なわれてきた差押手続が効力を失う=差押手続そのものが消滅することを意味します。
その結果、開始決定後に支給される給与については、何ら差し押さえを受けることなく、開始決定後の初回の給与から、通常通り(本来の手取り額の)満額を受け取ることが出来ます。
ただし、差し押さえ解除の前提として、破産申立をした事実が、裁判所から勤務先に伝わってしまいますので、勤務先に一切知られずに破産したいという場合は、給与差し押さえが始まるまでに破産手続開始決定を受ける必要があります(この点は、後述する個人再生との関係でも、同じことが言えます)。
他方、同時廃止事件の場合は、まず、破産手続開始決定の時点で、給与差し押さえの手続が「中止」し、その後、免責許可決定が確定した時点で初めて、差押手続が「失効」します。
差押手続の「失効」の意味は、前述のとおりであり、したがって、同時廃止事件の場合、給与が満額受け取れるようになるのは、破産手続開始決定の時点ではなく、免責許可決定確定の時点となります(これを管財事件と比較すると、満額での受け取りが可能となる時期が、数か月は遅れることとなります)。
それでは、開始決定の時点で行なわれる、差押手続の「中止」とは何かと言えば、要は、「免責の許可・不許可の結論が出るまでの間、一時的に差し押さえを中止する」ということです。
差押手続が「中止」となった場合、会社は、差し押さえ分の給与を、破産者と債権者のどちらにも支払うことが出来ず、免責の結論が出るまで、毎月プールしていくことになります。
その後、①免責が許可されると、前述のとおり、差押手続が失効し、その後の給与が満額受け取れるようになるだけでなく、それまで会社にプールされていた給料も、全て破産者に引き渡されますが、②免責が許可されなかった場合は、従来の給与差し押さえが再開される上に、会社にプールされていた給料は、全て債権者に渡ってしまいます(なお、管財事件の場合は、前述のとおり、給与の差押手続は、開始決定の時点で既に失効しているので、その後、免責不許可で終わったとしても、一度失効した差押手続が復活する訳ではありません)。
以上のように、自己破産を行なうと、給与差し押さえが解除され、給与が満額受け取れるようになるだけでなく、差し押さえの原因となった借金自体も帳消しになるので、根本的な解決が期待出来ます。
ただし、自己破産をすると手持ちの財産を失うなどのデメリットがあります。
また、滞納した税金や罰金、子どもの養育費等は例外で、自己破産しても帳消しにならない(法律上免責の対象とならない)ため、ご注意ください。
(3) 個人再生する
個人再生と給与差し押さえの関係についても、自己破産と同様、差押手続の「中止」と「失効」がポイントとなります(差押手続の「中止」と「失効」のそれぞれの意味は、上記(2)で述べたとおりです)。
まず、差押手続の「中止」ですが、個人再生申立後、再生手続開始決定が出ると、この時点で、差押手続は法律上当然に中止されます。
ただし、申立を行なった時点で、再生債務者が、併せて差し押さえの中止命令の申立を行ない、かつ、裁判所が必要と判断した場合には、申立の時点で、差押手続が中止されます(実際の手続としては、再生裁判所(=個人再生を申立てた裁判所)が出した中止命令を、執行裁判所(=給与差し押さえが申し立てられた裁判所)に別途提出します)。
もっとも、この時点では、差押手続は「中止」しているだけで、まだ「失効」していません。そのため、「中止」後の給料の差し押さえ分については、結論が出るまでの間、誰にも支払われずに、会社にプールされることになります。
自己破産では、ここでいう「結論」とは、免責が許可されるか否かの結論のことであり、同時廃止事件の場合、免責許可決定が確定した時点で、差押手続が失効するという扱いでした。
これに対し、個人再生における「結論」とは、再生計画が認可されるか否かの結論であり、再生計画認可決定が確定した時点で、差押手続が失効するものとされています。
再生計画認可決定が確定して差押手続が失効した場合には、自己破産と同様、その後の給与は満額受け取れますし、差押手続が中止してから失効するまでの間に会社にプールされていた給料も、全て再生債務者が受け取れます(逆に、再生計画の認可が得られなかったときは、従来の差押手続が再開される上、会社にプールされていた給料も、全て債権者に取られてしまいます)。
ただし、個人再生では、「差押手続の中止後は、再生計画認可決定の確定をもって初めて差押手続が失効する(=それまでは給与を満額受け取ることが出来ない)」という原則ルールに対する一種の例外として、差し押さえの取消命令という制度があります。
すなわち、再生手続開始決定後、再生債務者が裁判所に対して、差し押さえの取消命令の申立を行ない、かつ、裁判所が、再生のために必要があると認めれば、差押手続の取消を行なうことが出来ます(実際の手続としては、前述の中止命令のときと同様、再生裁判所が出した取消命令を、執行裁判所に別途提出します。なお、法律上は、開始決定前であっても、取消命令の申立は可能ですが、よほどの緊急性がない限り、申立が認められることは殆どないでしょう)。
取消命令によって給与差押手続が取り消された場合は、(再生計画認可決定の確定を待たずに)その時点から、給与を満額受け取れるようになり、かつ、取消の時点までに会社にプールされていた給料も、全て受け取れます。
確かに、職場を変えればその職場からもらう給与がなくなるので差し押さえを免れることができます。
しかし、新しい職場からもらう給与を差し押さえられてしまう可能性がありますし、そもそも新しい職場が見つかるかどうかという問題もあります。
また、職を得るまでの間は無収入になるので、借金完済までの道のりが遠くなる点もデメリットです。現実的な方法とは言えないでしょう。
5.給与の差し押さえは弁護士に相談して解決を
給与の差し押さえには「借金を支払わないと差し押さえをしますよ」という書類が届く等の前兆があります。
できればこの段階で弁護士に相談して、差し押さえを回避する方法を教えてもらい、実行に移してください。
それができずに差し押さえを受けた場合でも、対策はありますが、自分で調べて実行に移そうとしても時間や手間がかかるため、差し押さえを解除してもらうまでに長い期間が必要となる可能性があります。
弁護士ならば迅速かつ的確な方法で差し押さえを解決してくれますし、差し押さえの原因となった借金そのものも解決してくれるはずです。
給与差し押さえを受けてしまった場合は、一刻も早く弁護士に相談して、差し押さえ問題や根本となる借金問題を解決することをおすすめします。
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