後遺障害の賠償請求で大切な「症状固定」の時期や注意点
交通事故の後遺症について損害賠償請求するときに非常に重要になる概念が、「症状固定」です。
ここでは、症状固定とは何かについて、症状固定が損害賠償手続の中で持つ役割や、症状固定の時期や手続の流れ、その他の注意点をわかりやすく説明します。
このコラムの目次
1.症状固定の効果
症状固定して初めて後遺障害の賠償請求が可能になる。
「症状固定」とは、治療をしても、それ以上回復しなくなり、もう元通りの健康な状態に戻れなくなったと認められることを言います。
いわゆる「治癒」との違いは、元の健康な状態に戻らなくなったということにあります。
症状固定のとき以降に残り続けてしまっている症状が「後遺症」です。つまり、症状固定の状態になった=後遺症が残ったということです。
ですから、症状固定後の期間について、後遺症の損害賠償請求が出来ることになります。
(1)症状固定が交通事故の損害賠償手続で持つ役割
交通事故の損害賠償請求では、「ケガによる損害」と「後遺症による損害」は区別されています。
ケガの損害は、たとえば、医療費・休業損害(仕事を休んだことによる減収)などです。治療中に請求すればすぐに一部がもらえることもあります。
それに対して、後遺症の損害賠償は、「後遺障害等級認定手続」で、「後遺障害」に当たると認定されなければ、原則として請求することが出来ません。
後遺症がどれだけ被害者の方に損害を与えるかは判断しづらいものです。
裁判で延々と争っていては時間がかかってしまいますし、他の被害者との判断がずれてしまい、不平等になってしまう可能性もあります。
そこで、「後遺障害等級認定基準」という基準に当てはまるかを、第三者機関が認定するようにして、迅速かつ公平な損害賠償請求が出来るようになっています。
この後遺障害等級認定手続をするには、当然、後遺症があることが前提です。
ですから、後遺症が残ったと認められた症状固定のときから、後遺障害等級認定手続、ひいては、後遺障害の損害賠償請求が出来るようになるのです。
ここで注意しなければならない大切なポイントがあります。
これまでの説明を逆からみれば、「症状固定の後に生じた医療費などの損害については、原則として、ケガに関する損害賠償をすることはできなくなる」ということです。
症状固定の時期やタイミングの判断で重要になります。
(2)後遺障害の認定を受けたら請求できる損害賠償の内容
後遺障害等級認定を受けたときに主に請求できる損害賠償請求権は以下の二つです。
- 後遺障害の慰謝料
後遺障害により、被害者の方が受けた精神的損害、つまり、心の傷に関する損害賠償金です。後遺障害の等級に応じて、目安となる金額が定められています。 - 逸失利益
後遺障害により、被害者の方が失う将来の収入に関する損害賠償金です。後遺障害の等級に応じて、労働能力、つまり仕事や家事をする能力がどれだけ失われるかを示す「労働能力喪失率」が定められています。
労働能力喪失率に、被害者の方の収入を加味して逸失利益を計算します。
2.症状固定から示談までの流れ
では、症状固定は具体的にいつになるのでしょうか。
そこから、保険会社と示談して後遺障害の損害賠償金を手に入れるまでの流れを簡単に説明します。
(1)症状固定の時期
症状固定がいつになるかは、
- 医師による医学的・専門的な診断や意見
- 検査結果
- ケガや症状、治療などの、内容や治療中の経過など
- そのケガや症状が通常症状固定するまでの一般的な期間
- ケガをした交通事故の内容
など、様々な事情を考慮して決められます。
症状固定は法律的な概念ですから、最終的には裁判所が確定します。
とはいえ、基本的には医師の判断が目安となります。症状固定の時期について、医師に適切な判断をしてもらうために必要なこととして、①事故から一週間以内に通院を始めること、②通院間隔は1か月以内にすること、③「後遺障害診断書」の内容をしっかりと確認すること、が挙げられます。
事故直後に診断を受けることで、交通事故の身体への影響を医学的に明らかにしてもらいやすくなります。
また、こまめに通院することで、症状固定の時期を正確に判断してもらえるようになります。
③の「後遺障害診断書」とは、後遺障害の賠償請求をするときに医師に作成してもらう必要がある特別な診断書で、必要書類の中でも最も重要なものになります。
[参考記事]
「後遺障害診断書」を項目ごとに解説
その記入欄の中には、まさしく「症状固定日」もあります。
後遺障害診断書に記載されている症状固定日が思っていたものと違っていたら、必ず医師に確認し、場合によっては修正をお願いしてください。
(2)後遺障害等級認定
医師により症状固定が認められたら、さっそく後遺障害等級認定の申請をしましょう。
後遺障害等級認定の申請方法には、「被害者請求」「事前認定」のふたつがあります。
事故が原因であることが明らかで、かつ、後遺症の症状が軽い、または、症状の重さが明らかな場合以外は、被害者請求によるべきです。
事前認定は、加害者側の任意保険会社が、後遺障害診断書など以外を除くほとんどの書類や使用を代わりに集めてくれますが、十分な資料を集めてくれるとは限りません。
被害者請求ならば、被害者の方自ら書類や資料を集めることができます。手間はかかりますが、ちゃんと後遺障害を認定してもらえるよう、万全の準備をすることが出来ます。
認定審査に期間は1か月半から2か月ほどが一般的です。複雑な事情がある場合には、6か月かかることもあります。
満足いく認定がされなかったときには、新たな資料を提出し、再審査を要求する「異議申立て」ができます。
なお、被害者請求の場合は、認定後すぐに後遺障害についての損害賠償金を加害者側の自賠責保険会社から受け取ることが出来ます。
一方、事前認定の場合は、損害賠償金全体について加害者側と示談が成立するか、改めて被害者請求をしない限り、後遺障害の損害賠償金を受け取ることはできません。
(3)保険会社との示談
後遺障害等級認定の手続が終わったら、次は加害者側の任意保険会社との示談交渉を行う必要があります。
たとえ、被害者請求をしたとしても、自賠責保険会社から支払われる損害賠償金は、あくまで最低限のものだからです。
このときに非常に重要なことが、弁護士に依頼することです。
交通事故の損害賠償金の基準は複数あり、弁護士に依頼することでより高額な基準が計算に使われることになりますから、ほとんどの場合は、賠償金の金額を大幅に増やすことが出来ます。
示談が上手くまとまらないようであれば、裁判で決着をつけることになります。
裁判でも、症状固定がいつか、改めて問われることになります。
その点も踏まえて、症状固定に関する注意点について説明しましょう。
3.症状固定に関する注意点
症状固定は、交通事故の損害賠償制度を区切る重要な法律的問題です。
注意をしなければ、損害賠償に悪影響が及びます。
(1)保険会社の判断より医師の判断を尊重する
加害者側の保険会社は、被害者の方に代わり医療費を病院に支払います。一括払いと呼ばれる保険会社のサービスの一つです。
逆に言えば、法律上の制度ではないため、保険会社の判断で打ち切ることが出来ます。
そのため、保険会社は、独自の判断で症状固定済みだから医療費はもう支払わないと主張してくることがあります。
症状固定は法律的な専門判断が必要であり、その中では医師の診断が重要です。保険会社の判断の言うことを聞く必要はありません。
特に、むちうちなどでは治療期間も後遺障害認定のための重要な判断材料です。
保険会社は機械的にむちうちなら3か月で症状固定済みと言ってくることもありますが、6か月は治療を続けなければ、むちうちによる後遺障害は認められにくくなります。
医師が治療開始から6か月未満にもう症状は固定済みと判断してしまったのならば仕方がありません。
しかし、医師からまだ通院して治療を続けてくださいと言われているのに、保険会社が症状固定したから医療費の支払いは打ち切ると言われたことを理由に、通院を止めるようなことはしないでください。
保険会社の治療支払い打ち切り後は、いったん自己負担になりますが、あとで保険会社の判断した日よりも後の日が症状固定日だと認められれば、保険会社から医療費の支払いを受けることはできます。
なお、健康保険を使うことはもともとできます。保険会社が一括払いしてくれているかどうかにかかわらず、利用しておきましょう。
(2)症状固定後のリハビリなど通院治療について
症状固定後の医療費は、原則として賠償請求できません。
例外的に、症状固定後の医療費の請求が認められる場合がないわけではありませんが、ごく限られた場合に限りますから、まず期待はできません。
それでも、医師から日常生活に慣れるためのリハビリを続けるよう言われているのであれば、必ず通院を続けましょう。
損害賠償が出来ないからと言って、通院を止めては本末転倒です。
なお、医師から症状固定済みであり、通院は不要だと断言されているのに、相手が医療費を支払ってくれるだろうからと、不要な通院をしないでください。
確かに、症状固定日は、医師の判断に縛られるわけではありません。しかし、最終的な判断を裁判所にお願いしても、裁判所も医師の判断を尊重します。
医師が不要と判断した通院中の医療費は、損害賠償請求が認められない可能性が高いでしょう。
保険会社からお金を受け取っていた場合、損害賠償金のうち支払いすぎた分を取り戻す不当利得返還請求訴訟を起こされるおそれすらあります。
4.まとめ
症状固定は、交通事故で後遺症が残ってしまったときにカギとなる重要な概念です。
医師の判断が尊重されるとはいえ、最終的には法律的な判断で決着がつくことになります。
保険会社からの主張に対抗し、医師の判断を軸に、少しでも被害者の方に有利なタイミングを症状固定日とするためには、法律の専門家である弁護士の手助けが必要です。
事故直後、通院中の対応が症状固定日の認定に影響を及ぼすこともありますから、出来れば早めに弁護士に相談してください。
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