むち打ちが後遺障害14級に認定されるためにするべきこと
「交通事故で首・腰がむち打ちになってしまった。痛みがあるのに検査をしてもよく分からないらしい。医者に症状を話すしかないが、うまく伝えられるだろうか…」
医師に対してどのようなことをどのように伝えるか。これは、怪我の治療だけでなく、交通事故の損害賠償金を手に入れるためにも重要になります。
医師の診断書やカルテは、賠償請求の証拠としてとても大切だからです。
また、後遺症が残ってしまったときに慰謝料などの損害賠償金を大幅にアップするためには、「後遺障害等級認定」を受ける必要があります。
この認定でも、医師の診断内容は大きな影響を与えます。
特に、腰椎捻挫や頸椎捻挫などいわゆる「むち打ち」では、ほとんどの場合、画像検査などで原因がはっきりとはわからないことが多く、被害者の方の医師への証言が重要になります。
ここでは、交通事故でむち打ちになってしまった方が、後遺障害14級9号の認定を受けるために、通院のタイミングや頻度、医師に説明すべき内容、説明するときの注意点などについて、わかりやすく説明します。
このコラムの目次
1.むち打ち後遺障害等級認定のためのポイント
交通事故で後遺症が残っても、その後遺症が自動車損害賠償責任保険法の定める後遺障害の等級に該当すると認定されなければ、後遺症について、慰謝料などの損害賠償金を医療費などとは別に請求することはできません。
後遺障害等級認定のためには、①後遺症があること、②後遺症の原因が交通事故であること、③後遺症により労働能力が等級に該当するほど低下していることが条件となります。
しかし、むち打ちは、上記の条件を直接に証拠から証明することが難しいという問題があります。
むち打ちは神経や筋肉などが損傷して痛みやしびれが生じるものですが、その損傷は検査ではっきりとわからないことがほとんどです。
とはいえ、検査で原因を発見できないむち打ちでも、「14級9号 局部に神経症状を残すもの」に該当することがあります。
被害者の方の説明に基づく医師の判断などを証拠として、上記①~③の条件を認定できる可能性があるためです。
よって、検査結果を証拠とできないむち打ちで後遺障害14級9号の認定を狙うには、事故直後から「症状固定(症状が治療をしても回復しなくなり、後遺症が残った状態)」のときまでの、医師への説明や通院内容が重要な証拠になります。
2.交通事故に遭ったらすぐ受診
(1) 1週間以内に受診する
「交通事故→怪我→後遺症」という流れは、賠償や後遺障害認定で不可欠です。
交通事故により怪我が生じたことを審査機関に認定してもらうためには、事故から2、3日以内、どんなに遅くとも1週間以内には、医師に交通事故により怪我をしたと診断される必要があります。
1週間以上期間が空いてしまうと、交通事故以外に怪我の原因があったのではないかと疑われてしまうからです。
事故の前になかった症状が事故の後すぐにでてきたということを、事故の後できる限り早くに医師に認定してもらいましょう。
一方、むち打ちの場合、事故から数日たって初めて痛みが出てくることもあります。
そうなれば、事故から1週間以内という時間制限に間に合うかは非常に厳しくなります。
痛みを感じたらすぐに病院に飛び込むようにしましょう。
(2) 事故内容と受けた衝撃を症状に結び付けて説明する
症状の原因が交通事故なのだと積極的に証明するためには、「どのような事故に遭ったのか」「どんな衝撃を体のどこに受けたのか」「どんな症状が体のどこにあるのか」といった事情に、事故とのつながりが認められることが重要です。
カルテや診断書に詳しく書き込んでもらいましょう。
たとえば、赤信号で停車中に左にあるバッグの中を確認しているときに追突されたのであれば、主に首の右側の筋肉や筋が引き延ばされ損傷することが多いでしょう。
そのような事情も含めて、首の右の筋が常に痛いと説明するのです。
交通事故に遭ったのはあなた自身です。自覚症状だけでなく、交通事故の内容や、現実に事故により体がどのような衝撃を受けたかを説明できるのもあなただけです。
医師は、事故内容・受けた衝撃・症状の関連性を医学的な専門知識をもとにまとめ上げることができますが、医師の判断材料は、被害者の方が提供しなければいけないのです。
(3) 初診ではささいな痛みやしびれもすべて説明する
「ちょっと腰も痛いけれど、ともかく首が痛くてたまらない。医者に伝えるのは首のことだけで、腰については話さなくてもいいや。」
このような考えはお控えください。
先ほど説明した通り、交通事故直後に診断を受けなかった症状は、交通事故以外の原因によるものとされてしまうおそれがあります。
初診で医師に説明しなかった症状は、後遺障害等級認定の対象から除外されてしまうでしょう。
それだけではありません。ちゃんと医師に説明した症状も交通事故との因果関係が否定されることすらあります。
後遺症があると認定されるには、症状の内容や症状がある体の部位が交通事故直後から一貫していること、「症状の一貫性」がポイントになります。
事故後しばらく経ってから、事故直後に訴えていた首の痛みだけでなく、腰の痛みもあると説明し始めた場合、審査機関は、「腰の痛みの原因が首の痛みについても原因となっている可能性がある。とすると首の痛みも交通事故が原因ではない疑いがある。」と考えてしまいます。
どんなに些細な症状でも、初診の段階で必ず全て説明してください。
(4) 通院はこまめに行う
検査で症状を証明しづらいむち打ちの場合、症状が重いことを認めてもらうためには、「症状が重いなら普通するはずの行動」をしていることが無視できない証拠になります。
頻繁に通院しているかどうかという通院の頻度は、症状の重さの重要な証拠になるのです。症状が重いなら、普通は病院に通院し続けるはずだからです。
このようなことから、むち打ちの14級9号の後遺障害等級認定のためには、週に少なくとも2日、できれば3日の通院が必要です。
(5) 診察の間の平均的な症状を説明する
医師から、「今、具合はどうですか」と尋ねられても、まさしく医師と話しているそのときの症状を話さないでください。
むち打ちの症状は、天候や健康状態次第で変化します。診察のときにたまたま症状がよくなっているからといって、「今は症状がよくなっています」と医師にそのまま言ってしまうと、医師がカルテなどに「症状は回復した」と記載してしまうおそれがあります。
むち打ちなど交通事故の後遺症は、基本的に、事故直後が一番悪く、そのあと緩やかに回復し、最終的に後遺症が残ってしまうという流れをたどります。
診察のときの症状の程度をそのまま伝え、しかも伝え方も大げさになりすぎると、回復と悪化を繰り返しているように見えてしまいます。
それでは、後遺障害と認定してもらえません。
医師の診察で説明すべき症状は、「前回の通院から今回受診するまでの間に感じていた平均的な症状」なのです。
できる限り、日記やカレンダーに一言でもよいので、毎日の症状についてメモを残しておいてください。診察の際にはそのメモをまとめたものを確認しながら説明しましょう。
(6) 「○○すると症状が出る」という説明は禁物
先ほど触れたとおり、むち打ちの症状は、体の姿勢や疲労、さらには天候などにより「その時」に感じる症状の強さはある程度変わります。
しかし、後遺障害として認定されるには、「どんなときでも」症状があること、「症状の常時性」が必要です。
「デスクワークをすると痛い」「天気が悪いと痛い」…このようなことを、そのまま医師に伝えてしまうと、医師や審査機関は、「デスクワークなどイスに座っているとき『だけ』症状が出る」ととらえてしまうおそれがあります。
「いつでも痛みがあるけれど、椅子に座り続けていると、その負担でどんどん痛みが大きくなる」「いつも痛いが、雨の日は更に症状がひどい」などのように、どんなときでも痛みがゼロになることはないことをはっきりと説明することを忘れないでください。
何らかの条件は、あくまで症状が強く自覚できるきっかけに過ぎないということとの区別をしてください。
なお、首については、常に動いている部位ですから、「動いたときだけ痛い」場合でも、常時性が認められることがあります。
3.後遺障害診断書の自覚症状欄の重要性
「後遺障害診断書」は、後遺障害等級認定で最も重要な書類です。検査結果などと並んで、後遺障害の認定を左右します。
14級9号のむち打ちでは検査結果に期待できませんから、後遺障害の認定を受けるためには、後遺障害診断書の内容、その中でも自覚症状の項目欄が大きな役割を果たすことになります。
症状固定時の自覚症状を医師に説明するのは、もちろん、患者であるあなたです。
ポイントは、以下の事項をできる限り具体的に説明することです。
- 症状の一貫性:事故直後から症状固定まで、症状の内容や症状のある体の部位が同じであること
- 症状の常時性:何らかのきっか怪我なくても、いつでもどこでも常に症状があること
- 日常生活への支障:むち打ちの痛みのせいで、仕事や家事、趣味などが事故以前のようにうまくできなくなっていること
完成した後遺障害診断書を医師から手渡されたら、その場で必ず具体的な記載内容をチェックしてください。
説明した内容とのずれがあれば、医師にもう一度説明をして、修正をしてもらってください。
4.まとめ
14級9号のむち打ちは、交通事故との因果関係や症状があること自体を、検査などで直接証明することができないため、認定には困難を伴います。
様々な事情を積み重ねて、後遺障害の認定条件をクリアしていると認めてもらうことになります。
医学的な検査による証明が期待できない以上、証拠としては医学の専門家である医師の意見が頼みの綱です。
しかし、どんなに優秀な専門家であっても、判断の基礎となる事実が分からない、または、その事実の把握ができなければ、説得力ある見解が生まれることはありません。
医師に対して落ち着いて適切な情報提供ができて初めて、医師も審査機関を納得させられる意見を述べることができます。
被害者の方の具体的事情に基づいて、どのようなことをどのように医師に伝えればよいのか。
それは、後遺障害等級認定手続の仕組みを理解している法律の専門家、弁護士の助言を受けて初めてわかることです。
泉総合法律事務所では、これまで多くの交通事故の後遺症に悩まされている方を助けてきた豊富な実績がございます。皆様のご来訪をお待ちしております。
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