家族(夫や息子)が強制わいせつ罪で逮捕されてしまったら
夫や息子が強制わいせつ罪で逮捕されてしまったとき、家族としてはどのように対処するのが正しいのでしょうか?
逮捕されたままでは、会社や学校にも行けず、不利益がどんどん大きくなります。なるべく早く身体拘束を解いて日常生活を取り戻す必要があるでしょう。
今回は、家族が強制わいせつ罪で逮捕されたときに家族がすべきことを解説していきます。
このコラムの目次
1.強制わいせつ罪とは
ときどき、有名人が「強制わいせつ罪」で逮捕されているケースがありますが、そもそも強制わいせつ罪とはどのような犯罪なのでしょうか?
(1) 強制わいせつ罪について
強制わいせつ罪は、暴行や脅迫の手段を用いて相手に「わいせつな行為」をすることです。
たとえば、相手を脅して服を脱がせたり、身体を触ったり、キスをしたり、夜道で急に抱きついたりすると、強制わいせつ罪が成立します。
痴漢でも、服の中に手を入れて触るなど悪質な場合には、迷惑防止条例違反では済まず、強制わいせつ罪に問われる可能性があります。
強制わいせつ罪の刑罰は「6か月以上10年以下の懲役刑」です。罰金刑などはなく必ず懲役刑が適用されます。
強制わいせつ罪は、かつて「親告罪」でした。親告罪とは、被害者が刑事告訴をしないと処罰されない罪です。
しかし、近年法改正が行われました。現在、強制わいせつ罪は親告罪ではなくなっています。
被害者が刑事告訴をしなくても、犯罪が発覚すると警察が捜査を開始して逮捕される可能性があります。
(2) 強制わいせつ罪の「暴行」
強制わいせつ罪における「暴行」は、わいせつ行為と独立していなくても良いと考えられています。
相手を殴ったりしなくても、暴行自体がわいせつ行為であれば、強制わいせつ罪が成立します。
(3) 性的な意図について
かつて裁判所は、強制わいせつ罪の成立には「性的意図」が必要と考えていました。
たとえば「嫌がらせ目的で裸にさせて写真撮影した」場合、強制わいせつ罪が成立しなかったのです。
しかし、近年判例変更されて、性的意図がなくても強制わいせつ罪が成立する場合があると判断されています(最高裁平成29年11月29日判決)。
(4) 相手が13歳未満の場合
被害者が13歳未満の場合、暴行や脅迫の手段を用いなくても、わいせつ行為をしただけで強制わいせつ罪が成立します。
相手が同意していても犯罪となるので注意が必要です。
(5) 18歳未満の児童に対する監護者のわいせつ行為
18歳未満の児童に対し、親権者などの支配力を有するものがその立場を利用してわいせつ行為を行った場合、暴行や脅迫の要件は不要です。
強制わいせつ罪が成立する典型的なケース
- 夜道でいきなり女性に抱きついた、押し倒した
- 電車の中で、女性の下着の中に手を入れて直接性器を執拗に触り続けた
- 13歳未満の子どもが同意したから服を脱がせた、自分の性器を触らせた
- 酔った勢いで相手が嫌がっているのに無理矢理キスをした
- 母親の再婚相手が同居している連れ子にわいせつな行為を強要した
2.強制わいせつ罪で逮捕・勾留された場合の流れ
では、強制わいせつ罪で逮捕されると、どのような流れになるのでしょうか?
刑事事件で逮捕された場合の流れは「身柄事件」と「在宅事件」で異なります。逮捕されるのが身柄事件、逮捕されずに在宅で捜査が続けられるのが在宅事件です。
まずは、身柄事件の進み方を説明します。
(1) 身柄事件となった場合
逮捕後48時間以内に検察官の元に送られ、その後24時間以内に勾留請求をするか検察官が判断します。
裁判官による勾留決定がされると,被疑者は引き続いて警察の留置場内で勾留(拘束)されます。
勾留期間は原則として10日とされていますが、「捜査が終了しない」という理由でさらに10日延長されるケースも多いです。
再度の延長はできないので、起訴前の勾留期間は最長20日間です。
逮捕勾留中には、警察官や検察官から取調べを受け、その結果が「供述調書」に残されます。
勾留期間が満期になると、通常,検察官は被疑者を「起訴」するか「不起訴」にするかなどの処分を決定します。
起訴されたら通常の刑事裁判となり、裁判所で裁かれます。日本の刑事裁判の有罪率は99.9%以上なので、多くのケースで有罪判決が言い渡されます。
不起訴になったら身体拘束から解放され、基本的に同じ罪で再度捜査対象になることはありません。
(2) 在宅事件となった場合
1か月~数か月が経過して送検された後で検察官から呼出があり、取調べが行われます。その後捜査資料と取調べの結果にもとづいて、検察官が起訴するか不起訴にするかを決定します。
起訴されたら裁判となり、有罪判決が確定したら前科がつきます。
不起訴になったらそのまま捜査が打ち切りとなって、基本的に再度同じ罪で捜査されることはありません。
3.逮捕・勾留された家族のためにできること
夫や息子などの家族が強制わいせつ罪の疑いで逮捕されたら、家族は何をすればよいのでしょうか?
(1) 弁護士への相談
家族が逮捕されたら、すぐに弁護士に相談しましょう。
弁護士からは、今後の刑事手続の流れや事件処理結果の見込み、とるべき対処方法などについてのアドバイスを受けられます。
また弁護士は、逮捕された本人とすぐに接見(面会)できます。
逮捕後勾留されるまではおよそ3日間ですが、この3日間はたとえ家族であっても警察で本人に接見(面会)できません。この間に接見できるのは弁護士のみです。
もしも逮捕後に誰も接見に行かずに本人を放置したら、取調べで不利益なことを話してしまったり、本人が動揺して精神的に不安定になってしまったりするリスクが高くなります。
早急に弁護士を派遣して本人と面談してもらい、励ましたり取り調べに対するアドバイスをしたりする必要があります。
(2) 示談交渉が重要
強制わいせつで逮捕されたら、被害者との示談が極めて重要です。
被害者のいる刑事事件では、被害者と示談ができると被疑者被告人によって非常に良い事情と評価してもらえるからです。
確かに、今は強制わいせつ罪が親告罪ではなくなったので、示談ができて被害者が刑事告訴を取り下げたとしても、必ずしも不起訴にしてもらえません。
それでも、起訴前に示談が成立すると、不起訴にしてもらえる可能性が高まります。
また、後述しますが、仮に起訴されてしまったとしても、示談が成立していたことにより減刑をしてもらえる可能性があります。
被疑者の家族が自分たちで被害者に連絡を入れて示談を進めることも可能ですが、実際問題としては難しいでしょう。
被害者の方も、被疑者の家族からの示談申し入れを受け付けない可能性があります。
刑事弁護人からの連絡であれば被害者側も対応しやすいので、当初から弁護士に示談交渉を任せるのがスムーズに示談をまとめるためのポイントとなります。
(3) 起訴後でも示談により執行猶予や減刑の可能性
万一,処分決定までに示談がまとまらなかった場合でも、起訴後に示談が成立すると被告人の「刑罰」が軽くなります。
強制わいせつの刑罰は懲役刑しかなく、執行猶予がつかなかったら刑務所に行って服役しなければなりません。
判決前に示談が成立すれば、執行猶予が付く可能性が上がります。
前科があったり悪質な犯罪であったりして実刑になるとしても、示談が成立していれば刑期を短縮してもらえるかもしれません。
強制わいせつは、放置しておくと実刑判決もあり得る重大な犯罪です。不利益を小さくするためには弁護士によるサポートが必須ですので、家族が逮捕されたらすぐにご相談ください。
4.スピードが勝負の刑事事件は弁護士に相談を
強制わいせつ罪では、在宅事件にはならず身柄事件となるケースが多いです。
身柄事件では、被害者と示談交渉をする時間が短くなるので特に注意が必要です。
逮捕後勾留が満期になるまでは、最大20日間しかありません。弁護士に依頼したタイミングが遅くなると、被害者との示談がまとまるまでに処分決定されてしまいます。
すると起訴される可能性が高くなります。
起訴を避けるには、勾留満期になるまでに示談をまとめて検察官に示談書を提出しなければなりません。
家族が逮捕されたら、すぐにでも弁護士にご連絡ください。
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